一緒に暮らそう sample1( 本文内一部頁)
事をもっと知りたいんだ。
「さっき、さ。ジジィたちが来る前話してた続き…」
「ん?気にしてたのかい」
「しょーがねぇだろっ」
片手を背もたれへ上げたマルコは、顔をこちらへ傾けておれの言葉を待つように黙っている。手元に目線を落としたままのおれの横顔に視線がぶつかり、出す言葉を躊躇わせた。
「前の、奥さんとなにしてきたんだ?」
こんな事、気にしてしまう自分も小さい男だと思う。答えだって、おれが望むものばかりではない事だって分かっていても、マルコの事をまた一つ知れるならやっぱり聞きたいんだ。
「ただの話だよい。なにが聞きてぇんだい」
「だってあんた、この家来てからなにもシてねぇ…だろ」
家に帰って来なかった日なんて、前の時と今回の二度しかない。男である以上、三代欲求の一つであるそれが溜まっていたっておかしくない。と、自分を棚に上げているのは、経験値の違いだ。エロ本を買うのさえ、恥ずかしがってしまう程の自分はまだそれを知らないのだ。
「…おれももう若くはねぇからねい」
そう言い切ってから、後ろから回された手が、おれの頭を押さえて半ば強引に顔の向きを変えられた。
「お前がさせてくれんなら、おれも我慢する必要ないんだがねい?」
「おれ相手に…我慢、してた事があったのかよ」
顔が近付いて唇が触れてしまいそうな程に寄せられた顔に、無意識のうちに頬の熱を上昇させてしまう。
「ああ。好きな奴が取って食える空間にいるだけで十分そそられるもんだよい」
いくらバカなおれだって、それの意味くらいは分かる。おれが話を折ってしまったばかりに知ってしまった、マルコがおれに求めている熱。
「それ、いつから考えてたんだ…」
「さあねい」
緩く口角をあげ、噛みつくように唇を奪ったマルコはおれに初めての感覚を連れてきた。
「んっ、……っん」
何度か角度を変えてくる唇は、固く閉ざしたままのおれの唇を裂こうと探ってくる。
「エース舌、出せよい」
獲物を捕らえた獣の目。我ながらその表現は的確だと思う。
こじ開ける事を止めたマルコは、離した唇からおれにそう指示を出してきたのだ。捕らえられたおれは、マルコの言葉に逆らえるはずもなく、おずおずと出したぬめりを帯びるそれを、すぐにマルコのそれに絡められた。
熱い、という表現は正しいのか、マルコの体温がダイレクトに通じて、熱を遷される。頭がぼうっと溶けて、ソファーを掴んでいた手の力を奪われた身体はマルコの腕に助けられた。それは、自ずと身体を任せてしまうような格好だ。
角度を変えて奥を探ってくる唇と唇の間から漏れた耳に響く水音が厭らしく、勝手に腰の奥が疼く。自分の身体に、なにをされているのか分からない。ただ普段とは違う様子の腰をソファーへ擦り付けて身を捩る。
「はあっ……、ん」
マルコの息が自分の咥内へ吐き出されて、どちらのものかも分からない唾液が溜まっていく。それごと絡み取ったマルコの舌に、つい喉を鳴らしてマルコの肩を強く押した。
「ま、…って、マルコ……」
舌が変な感覚だ。うまく動かせなくて、どうなってしまったのかと触りたくなる。しかし、顔が未だ目前にある現状でそういった子供のような真似はしがたい。
「なんっ、で…おれがリードされて……んだ」
「経験値と、早いもの順だろい」
離された顔を不服そうに、マルコは眉根を寄せて述べた。
「男と、の…経験もあんのか…?」
「んなモノ好きじゃねェよい。男を好きになったのはお前が初めてだ」
いちいち、小さいところに反応する。初めてという単語は、主語がなにに掛かっていても嬉しいものだ。照れも隠して「そうか」なんて言ってるうちに腕を掴まれれば、ソファーを立ち上がったマルコに連れられて、足を踏み入れた事の無かった部屋へと導かれた。
おれでは開けられない、この一枚の壁が厚くて何度、何度恨めしいと思った事だろうか。
白と黒、単調な色合いで揃えられた部屋の壁に添うようにして置かれた黒のベッド。微かに煙草の残り香がして、初めて来るマルコの部屋に心臓がバクバクと鳴り出す。
明かりなんてのは点け忘れて、窓から差し込む弱い光とドアの隙間からのリビングの明かりだけがかろうじて部屋のシルエットを映し出している。
同じ屋根の下なのに、まるでここだけ異空間だ。
ベッドへ放り出されるように手を離されれば、そこに勢いよく転がった。ベッドのクッション材に助けられて、身体の向きを直そうとベッドに肘を付いたときには既に唇は塞がれてしまっていた。
「ん………」
自分に跨ったマルコがキスをしたままシャツを脱いで、ベッドの脇下へ放る。足元に畳まれている掛け布団も大人しくしない自分の足が蹴り落とし、シングルのマルコのベッドは慣れない二人分の体重を抱えて、ギシッと音を上げた。
角度を変えて何度か触れた唇は先ほどのように欲望を掻き立てるものではなく、ちゅっちゅ、と音を立て触れては離れていく。
「嫌なら止めろよい」
最終確認のように告げたマルコの声色は、居たたまれない程優しい。マルコの香りするベッドに押し倒されて、そんな聞かれ方をされてしまっては、おれが断れるはずもないのに。
「や、じゃ……ない」
これから行われる事を分かっていて拒絶は出来ない。焦らずとも、好き合っていれば自然とそうなる時が来ると、なにかで聞いた事がある。果たして自分たちは、早いのだろうか遅いのだろうか。
頬を触れた唇が顎を辿って首へ落ち、皮膚を強く吸われた。
「いっ……、ん」
ピリッと走った痛みに一瞬肩を跳ねた。甘くこぼれ落ちた声が自分のものとは思えず、腕で口を押さえてしまう。
変な声出して、マルコに嫌われたくない。
「なに押さえてんだい」
そんな自分の思いとは裏腹に、腕を取られてそこにも小さな痛み走るキスをされた。
暗闇に目が慣れれば、マルコの胸襟もやたらと目についてしまう。おれの知らないところでジムにでも行っているのだろうか、鍛えられた筋肉は余計に心臓を高鳴らせて、混乱させた。どうしてそれを格好いいだなんて思ってしまうのだろうか。
マルコの手が服の裾から昇って、露わにするように服を胸の上まで捲る。脱いだ方がいいのかと、シャツに手をかけたとき片口角を釣り上げたマルコが顔をそこまで落として、胸の中心に付く飾りへ唇を当てる。
「いぁっ……!?」
そこを舌で丹念に舐め上げられた後に、強く吸い上げられれば腰を反らせて頭を一度大きく振った。肌にマルコのぬめりが這う。
「ひぃっ、や…、……ちくび、は、す…っな……アッ」
執拗に舐めては吸われ、また舐められる度にそこは立ち上がって実を成す。
片方だけなのがもどかしいと思ってしまってはもう負けか。唾液にまみれた左乳首とは裏腹に、右側は触れられてもいない。それが余計に脳を翻弄して、息が上がった。
「そんなに乳首がイイのかい?」
いいとか悪いとか、そんなのはおれの分かる訳もない。勝手に変な声が漏れて、逃げ出したいような感情に襲われるだけだ。その隙にも立てられた歯が成した実を噛んで、また襲われる感覚にシーツを蹴って堪えていた。
「こっちも、固くさせてんだろい?」
無防備になっていた下腹部を、腹筋をなぞって降りていったマルコの手がその反応を示してくる。自分の気付かぬうちズボンを押し上げていたその熱は、服の上から揉んだマルコの手に激しく、脈を打ち付けてしまっていたのだ。
「ぁ、あ……っ、んっ、は、ン」
知らぬ間のその反応をマルコに知られてしまう恥ずかしさに、掴んだクッションを顔に押し当てて表情を隠す。
「性懲りもない奴だねい」
落とされた声は、早くも息を荒立てる自分の耳にもしっかりと届いて、嫌われる恐怖と羞恥が喧嘩を始めた。
「感じてんだって、素直に認めろよい」
クッションも奪われて近付いてきた顔に、腕を伸ばして首に絡める。
「こ、…っすれば……、変な顔…みられない」
寄せたマルコの肩に顔を寄せて、無理矢理言葉を紡ぐ。
「しょーがない奴だねい」
耳元で小さく笑ったマルコが、おれの腰を巻いていたベルトを引き抜いてズボンを膝までずり下ろした。そこに隠していた熱の中心はパンツに染みを作って窮屈そうに蠢いている。
「エース、脱がすぞい」
低く響く声でそう許可を取られては、頷く以外の選択肢は無い。
下着へも手を掛けたマルコは、ズボンを引っかける膝まで同じく下ろすと、それから一緒に足から取り払った。
芯を持った陰茎はとろりと先走りを漏らして、またひとりでに脈を打つ。そこをマルコの手に触れられれば、途端に腰が跳ねて声を上げた。
おかしくなってしまいそうな感覚を、快感だと認めてしまば一層この波に溺れてしまいそうだ。
「あっ、ァ、…っんく、……あ」
幹を包んだ手が、ゆっくりと上下に動き出しまたそこへ熱を送り込んでいく。
マルコに回した腕を解かれてしまえば、力も無くベッドへ沈む。自分がどんな顔をしているかなんて、もう気にする事も出来ない。
腰が自分の意識としないところで揺れ、マルコの赴くままに乱れていく。
つつっと先端からこぼした蜜と共に、指でなぞられていくと腰の奥が更に疼いて、手がシーツを強く握り込んだ。
「可愛いよい、…」
少し、声色を変えたマルコの声もぐぢゅぐぢゅと濡れる水音と自分の喘ぎ声にかき消され、耳まで届く事はない。
(本文内一部頁)
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