It snow in the city sample1(本文冒頭)


冬島が近かった。

その証拠に、甲板にはどかどかと降る雪が山を成して、普段溢れんばかりにそこにたむろしているクルーがひとっこ一人居ない。時々厚着した仲間が通り過ぎるくらいだ。
朝から降り続いている雪は、空が真っ暗になってもまだ降り散らしており、炎属性の能力者である自分でさえもこうも気温が下がれば寒いものは寒い。厚着などという言葉とは最も縁遠い自分でもさすがに、自然と震えてしまう身体を「んだぁっ」などと声を上げて幾らか誤魔化しながら、ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま部屋へと走っていく。
「おい、エースなにしてんだ風邪引くぞ!用がねぇならさっさと部屋戻れ」
「わーってるよ!」
不運にもこんな日に見張り番になってしまった仲間に、見張り台から駆ける自分を見つけられてしまい、足を止めて視線を上へあげた。
――そう思ってるならわざわざ呼び止めないでくれ。
心の中でそうごちりながら、立ち止まった事によって余計に冷えた身体を軽くさすり、二番隊の大部屋とは逆方向へと再び歩みを進める。
クルーが呼び止めた理由もそれだったのかもしれない。「部屋なら逆だぞ、どこに行くんだ」と。
ただもうこの船に乗って自分も一年になるのだ。いくら広い船内だといったって、今さら自分の部屋まで迷子になったわけでも当然無い。向かうべくしてそちらに向かっているのだ。
傘も差してなければ肩やら頭にも雪が覆いかぶさり、その部屋の前にたどり着くまでにも身体は相当冷えた。ドアをノックする前に一度身体を炎に燃やす。とりあえず肩や頭に乗った雪は払えたのを確認してから、軽いノック音を響かせ入室の合図をすると、部屋の主からの返事を待つ前にドアを開け、中を覗き込んだ。
「なんだい」
定例の反応を示したマルコに頬を緩ませながら、雪が舞い入る前に後ろ手でドアを閉め、踏み込んだ足で彼の背側にあるベッドへと飛び込む。
「さっみぃー……」
「上着くらい着て来いよい」
そう言うマルコの目がこちらに向く事はなく、どうせまた難しい資料やらとにらめっこしているのだろう。
「上着見つかんなかったんだって」
ごそごそと勝手にマルコのベッドの掛け布団をまくり、そこに潜っていく。しばらく無人だったベッドの中もかなり冷たく冷えきっており、そこでもまた身を震わせた。
船内に個室があるのは、恐らく年功序列だろう。マルコとサッチ、ジョズ、ビスタ、イゾウまでは隊員とは別の一人部屋を持っており、それ以降に入団した者は隊長、隊員問わず全員、隊に与えられた一つの大部屋に集約されている。
自分が今此処に来たのも、ベッドが自分の肌によく馴染んでここで寝る空間が物凄く好きだから、という自分勝手な理由だ。
「寝んのかい?」
「ふぁー」と声を上げて大あくびした自分に、一度ペンをおいたマルコが、こちらへ振り返って尋ねてくる。
「いや、まだ。マルコの仕事終わんの待ってる」
もう一つある、当然のようにおれが此処に居れる理由が、おれたち二人、仲間という家族にも秘密の恋心というものを共有しているからだ。
その想いをお互いちゃんと口にした事は無いのだが、サッチやイゾウ他、隊長らにはバレバレのおれの想いは当然マルコに知られているのだろうし、マルコがおれに対して同じ想いを抱いている事も、なぜかサッチから聞いてしまっているのだ。
それは確か隊長の誰かの誕生日で、宴をしていた夜だったはずだ。並べられた飯を食らいながら、ぐだぐだと愛だの恋だのの話をサッチとイゾウとジョズとおれとで、酒が入っているからこそ出来る話をしていた。
あれはマルコの誕生日か。いつもの宴ならその場にマルコも同席しているが、その日は居なかった。オヤジの特等席を取っていたのだから腹が立つが、それが誕生日パーティーの主役の特権だから文句も言えない。事実、年始めの自分の誕生日にも同じ経験を味わっている。
その時にサッチがなんのタイミングだったか、「マルコはエースの事大好きだしな」とぼやいて、酒を煽った。
自分もかなり酒が入り、目蓋を重くしていた頃ではあったがその一言だけは強烈に記憶に刻み込まれる。
詳しく聞こうとした時にはサッチはもうイゾウに押さえ込まれてしまっていて、追随は許されなかった。
「お前マルコに殺されるぞ」
イゾウの言葉にジョズも同意だと頷く。しかしおれはそんなサッチの身の心配をするほど思考回路が働いていなく、ぐるぐるとサッチの言葉が反芻した。

―― 好きなんて言葉、マルコの口から聞きたいよ。

「知ってんだろ……」



(本文冒頭)