THREE WISHES  sample1


「おれを呼んだのは誰だ」
色で言うなら、オレンジ赤ピンクの華やかな季節。空気澄む、真っ暗な空に真ん丸の月を浮かべて、森の合間木々を切り開いた地を照らすその中で今、二人の男の前で不自然に煙を立てていた。

王が政を治める一国。中心に構える建造物が、目の前に見えている宮殿。
外観豪華で一目でそれが王のものである事はすぐに分かる。
静まり返っている街並みへ振り向けば、一望出来たそれはまだらに光を残しており、夜更かしが得意な若者の姿があるのも分かった。時折走る車のヘッドライトが、一瞬辺りを照らして去っていく。
車の音が完全に遠くへ消えてから男二人へ向き直り、目の前の呆気にとられて言葉も出ない男たちに再度聞く。
「呼んだのどっち?」
もっとも、男の一人が持ってた金色のランプをうっかり擦ろうものならば、呼んでいなくてもこのエースというランプの精は現れてしまうのだが。
どこから流れ着いたのかも分からない、金色のランプを手に入れし者がその器を擦ったとき、白煙をまき散らしながら次第にそれは実体となる。謂われと違うところを一つ上げるとするならば、その姿は人と変わらない見た目。それには今までのどんな主人でも驚いていた。
但し、誰しもにこの姿が見える訳ではなく、エースの姿は呼び出した者のみにしかその目に映らない。
しかし主人が二人というのも、また異例だ。
一人は動揺しているように見えるが、もう一人はそうでもない。冷静に自分の姿を見据えている、男。
煙が完全に晴れてから足を一歩踏み出し、距離を縮め、声を掛けた。
「あんたの願い、三つまで叶えてやる」
視線が向く先は気持ち上。冷静を保っている男の方へ指を差し、定番のそれを告げる。
こちらの男とて、想像していたものとは違えど自分の存在意味は気付いているだろう。
待てないエースは、返答が無い男を前にポケットに手を突っ込み、決していいとは言えない態度で男を見据えた。
「なんか言えよ、辞退してもらってもいいんだぜ」
「勝手に出てきてひでェ言い種だな。大体、呼び出したのおれだぜ?ランプのありか見れば分かんだろ、なに勝手にマルコに聞いてんだよ」
目を丸めていた男がようやく動き出し、差した指を止めさせるように手を下ろさせるとマルコと呼ばれた男と、自分の間に立ちはだかり、ランプを渡される。
それを受け取り、取っ手に指をかけて数回廻すと再び胴体部分をしっかりと持ち直し視線をその男へ向けた。
「そんなもん、そっちの奴の方が賢そうだったからに決まってんだろ。第一印象って大事だよな、こういう時」
月の明かりだけが照らす暗闇の中でもこの距離になればかろうじて表情は窺える。カチンと、キレた効果音でも聞こえてきそうな表情の変化に口角を緩ませて更に続けた。
「どっちがこの豪邸の主かは、今の状況見ればさすがのおれにも分かるし。有益な方を選ばせて貰うのは当然の選択だと思うぜ?」
「なにを勘違いしてるか分からねぇが、こいつはただの金持ちの息子な訳じゃねぇ」
諦めたようにため息を吐いた男は、半身開いて後ろの男を親指で差し、感づいていたその男の正体を確信へ導いた。
「こいつはこの国の王、マルコだ。おれはその側近。名前はサッチ。まぁ付き人だな。一応不審者から王を守る義務がおれにはあるから、お前も自己紹介して貰おうか」
「自己紹介もなにも…、お察しの通りあんた達が呼び出したれっきとしたランプの精、エースだ。二人に呼び出されたのは初めてだからな、おれも動揺した。悪かった」
詫びの意を込めて軽く頭を下げると、下げた頭の上からククッと喉を鳴らす笑い声が聞こえ、顔を上げて声の発信源である、マルコへ目を向けた。
「面白い奴だねい。お前みたいなのは初めて会うよい」
ようやく聞けたその声は見た目通り落ち着いており、視点が合うその青い瞳は初めて見る色だった。
「おれもだな。長年ランプの精やってるが、国王の元に呼び出されたのは初めてだぜ」
「光栄だねい」
「褒めたわけじゃねェし」
サッチに気遣いつつ更に握手を求める手を差し出せば、なんなくその手を握り返され、意外に率直な反応に一度外した視線を再びマルコへ向けると、つい握手を交わした手をふりほどいてしまった。
どういう訳か、彼の表情は優しく微笑まれてしまっていたからだ。
照れを含んだ短い笑い声を出して、一歩下がると持っていたランプを軽く揺らし、一つ息を吐いて説明を始めた。
「主人が二人っつーのも異例で基準がねェから正解はおれにも分かんねェんだけど、とりあえず願い事は二人から合わせて三つまでっつー事にする。但し、神にも叶えられねェような事はおれにも無理だ。例えば死んだ奴生き返らすとか、空から金降らすとか」
そして二人の前へ三本の指を立てた手を突き出した。
この説明を以て、主人とランプの精との契約となるのだ。
「三つ叶えた時点でおれは消える。おれの記憶を残すか残さないかはその時点であんた達で決めていい。おれはすぐ帰りたいとかねェから願う内容はじっくり決めて貰って構わない」
「はい、質問ー」
その時間はまだ設けていなかったが、片手を上げて話を割ってきたサッチに視線を渡し、渋々それに聞く耳を持った。
「なに?」
「そもそもお前なんでそんな偉そうなんだ、願いを叶えてくれるランプの精だろ?普通はお呼びですか、ご主人様じゃねェのか?」
「おれ達をなんだと思ってんだ、別に家来じゃねェんだから対等だ、対等。王様だかなんだか知らねェけど、そんなもんこの国民じゃねェおれには関係ねェ事だし」
「もっともだねい」
小さく笑う声と共に、自分を肯定する言葉を返してきたマルコ。そっちの味方かよと小さく呆れため息を吐いたサッチは、人差し指を出して左右へ揺らし更に問いかけた。
「因みにランプの精、チェンジとかって?」
「ねェよ。あいにく今は皆出払ってる。続けるぞ。それからおれはずっとあんた達の近くに居る。つーかランプの近くだな。ランプ壊されるとおれやばいから、これだけは大事にして下さい」
そこも間髪入れず否定してから、更に先に説明しきれていなかったことを付け足し、ポケットから小さいサイズのノートを取り出すと、黒のペンもどこからともなく取り出してメモを取った。
「マルコと、サッチ…な」
「名前書いとかなきゃ忘れんのかよ、お前」
名前を確かめるように呼びながら、書き留めているとそれを覗き込んできたサッチにからかわれるように言われる。
「これはちげぇの」
短くそう言い返すと、閉じたノートにペンを掛け元のポケットにしまい、もう一度交互に目を向け言う。
「おれの事は好きなように呼んでもらって構わない。あ、最後に。あんたら男だからこんな心配いらねェと思うけど、おれと主人との恋愛は禁止。間違っても恋愛感情を持たない事がルールだ」
忘れていた規則を伝えると、満面の笑みを見せて最後にと、続けた。
「以上、聞きたい事あったらその都度で構わない。とりあえず宜しく!」

エースはこの時は知る由も無かった、自分がこの規則を破る事になる未来を。





(本文冒頭)