甘い恋をお探しですか?-03-
後に会社構内図を確認すれば、9階はワンフロアーまるまる総務管理課であった。ここは名の通り会社の重鎮を担う課であり、新入研修に回る事は出来ない。よって、新入社員がここの課に配属される事も許されない。
素性を教えてくれない恋人が、まさか自分と同じ会社に居ようとは。彼方からすればまさか自分と同じ会社に入社しようとは、といった驚きを隠せない心境だったのだろうが。
いつから知っていたのだろう。と、一瞬疑問が巡ったが彼の所属部署は総務管理課。
履歴書を送った時点で気付かれていたのか。それも妙に気恥ずかしい。身近な大人がマルコくらいしか居なかったエースは、就職に関しても彼に相談をしていた。
「恥っず…」
心の中で呟いたはずだったその言葉は音として隣に座っていた同じく新入社員に届いてしまう。
「なにがだ?」
短く返ってきた言葉にエースは目を丸めてそちらを見る。
彼とは挨拶程度しか会話を交わしたことがなかったが、思えば200人程近く居る新入社員の中で最初からずっと同じロ−テ−ションで研修を周り、なんとなくも会話を交わしたのはこのサッチという人物だけかもしれない。
「え、オレ口に出てた?」
「出てた出てた。ハッハッハ」
陽気な笑い声が上がれば、頭上に遠慮しがちに出来ているリ−ゼントが揺れる。
同期といえど同い年には到底見えない彼はそうとだけ言い残すとまた鼻歌混じりに作業を再開する。
ついマルコの事ばかりを考えてしまう自分の頭を掻き毟り、それから終業時間までは仕事に没頭した。
「エース、飲みに行かねえか?」
帰り支度を整え帰ろうとした矢先、誘い文句を掛けてきたのはサッチ。
「オレ?」
「そう。新入社員同士、話したい事あんじゃん。っつーのは表向きで、ちょっと飲みに付き合ってよ。まぁ時間があれば」
表も裏もこうも会社で堂々と話していては意味無いのではないだろうかと無駄な思考を駆け巡らせ、時計に目をやると、現時刻は普段会社を出る時間とそう大差ない。
更に今日の飯当番はルフィだったと記憶している。自分が飯の心配をしてやらなくてもよいとなると、せっかくの誘いを断るのは勿体ない。
「おう、じゃあ行こうかな」
「やった、サンキュー。オレここの近くで旨い店知ってんだ。そこ行こうぜ」
「任せるよ」
それを合図によっしゃと声を上げたサッチが、景気よく椅子から立ち上がり先導に立って会社を後にする。
大通りへ出て程なくすれば、個人経営でこじんまりとした居酒屋へ着いた。
「一杯目はビールでいいか?」
奥の座敷へ誘導されると、腰を下ろす前からサッチに伺われる。
「それでいい」
ここに来る道中でサッチの事を色々と聞いた。年齢は一回り以上も上な事、友人からの誘いで今の会社へ入社した事、元々はヤンキ−でその名残からずっとリ−ゼントにしているのだという事など、聞いてもいないのに話してくれた。
頼んだものが運ばれ、乾杯を済ませると今度は自分が質問責めに合う。
「え、因みに因みに、恋人なんかは居ちゃう訳?」
この人は本当に仕事の話をする気は無いようだ。
それにまた少々答えにくい質問を。
ビールをぐいっと呷って口を開く。
「まぁ、居ますよ」
「えっ何で今敬語になった!?」
「いやその面はオレの方が先輩かと思って」
「ハハッて失礼な奴だな。オレだって過去には彼女の一人や二人や三人や四人は居たぜ?」
ジョッキが開けば間髪入れず次の酒が置かれ、酒にそう強くないエースはそろそろ自分の限界を感じていた。
焦点が合わない。サッチの声が遠く聞こえる。…眠い。
そう巡った瞬間にはもうジョッキを片手にテーブルへ突っ伏せていた。
「うわっ、エースっ」
「あんまり飲ませないでくれよい、サッチ」
突然サッチの背中側から聞こえて来た声色には、慌てる彼を他所に低く落ち着いた中に少し怒りが含まれている。
「マ、マルコ。なにしてんだよ」
「こっちの台詞だよい」
-*TO BE CONTINUE*-