甘い恋をお探しですか?-04-
「お前がエース連れてったのが見えたからココかと思って来てみれば案の定かい。エースは酒に弱いんだよい」
「そんなの知らなかったんだよ」
ぴしっと決まったスーツ姿で現れたのは、間違えようもなく職場のお偉いさんである。しかしサッチは彼の名を知り、またその口調から2人が顔馴染みな事は言わずと知れる。
呆れたように吐き出されたマルコのため息を終いにエースの傍へ移動し、業務鞄を足元へ置くとテ−ブルに手を付いて寝顔を確認する。自然に口角が緩み目を細めると、ワックスも付けていない柔らかいエースの髪に指を通し、意識を覚醒されるように柔らかく撫でる。
「おいおい、マルコさんいつからそんな表情するようになったんだよ」
からかうように笑い混じりで掛けられた言葉にマルコの瞳がそちらを向く。
「とてもオレの知ってる特効隊長じゃねェなぁ」
更に続いた言葉にこちらはハ−ドワックスでしっかりと固められたリーゼントを掴み、黙らぬ口を制圧する。毛根が抜き取られてしまいそうな痛みに声を揚げ、逃れようと振ったマルコの手が、手元にあったグラスへ当たりテーブルを滑ると、更に料理が乗っていた奥の食器へ当たる。
その音にエ−スが肩で反応を示し、続いて唸り声を上げながら身を起こした。
「ん、オレ…寝てた…?」
「起きたかよい」
「あれ?マルコ、なにしてんの…?オレサッチと…」
記憶のある限りでは対角線上に座る彼に誘われてここに来たのは記憶にあるが、恋人を呼んだ覚えはない。居る予定の無かったマルコの姿に短く疑問を持った声をサッチへ投げ掛ける。
「ま、簡単に説明すればマルコがお前をストーキングして、この店に有り付く。そんでもってオレとマルコがお友達って訳なもんだからこんな状況」
「あー…え?」
「人聞き悪い事言うなよい」
アルコールの入ったエースの脳では、そんなにも簡単な説明でも半分も理解できず、目線を交互に向け理解を求めた。
無意識に伸ばした手は自分の飲みかけのグラスを掴み止める前にもエースの喉を流れてしまう。
間もなくエ−スは状況理解の前に再び夢の世界へ誘導されてしまい、止めきれなかったマルコが片手で頭を抱える。
「とりあえずオレが連れて帰るよい」
「あ、ちょいちょい」
腕を掴んで自分に凭れるようにエースの体を起こしたところでサッチに呼び止められ、眉を潜めて言葉の続きを待つ。
「お前が前言ってた大切な奴っていうのは、エースの事か?」
いつだったか、就職に世話になった際にそういう人が居ると漏らしていたマルコの言葉がここに来てしっくりと当て嵌まる。
「まぁそんなとこだい」
ふっと表情を和らげた。
さして広くもない店内。とは言えど客が一人二人出入りしたところでわざわざ視線をくれる人も居ない。
仕切りで何となく分けられている各テ−ブルでは各々が各々の宴を盛り上げ、店全体が騒がしい中でも目を覚まさないエースを抱えるマルコの言葉は、濁る事無くサッチの耳へ届く。
そうかい。と短く返せば片手を二人に振り、もう少しここへ留まる意志をビールを煽って表した。
終電もまだ辛うじて残る時間帯ではあるものの、店を出れば獲物を見つけたタクシ−が寄せてくるものだから人一人抱えたこの状況、乗る以外の選択肢はないだろう。
後部座席へ2人乗り込み、自分の住所を告げる。自分の家より程近いエ−スの家まで送るという選択肢を選ばなかったのは、こんな状態の彼を大切にしている弟に見せてやりたくない思いだ。
運転手も手馴れたようにナビに電源を点し、メーターをスタートさせる。
薄く流れてくる冷房の風に、エースの髪先が微かに揺れる。
酒のお陰で体温が上がっているのか、暑苦しそうに身を捩り意識がない中でジャケットを身剥がす。
仕方がないなとジャケットを畳んでやり、エースに視線を戻すと、更にシャツのボタンも一つ開き、小さく唸る。
無意識とは言え恋心を抱いている彼のその仕草には、誘惑されているという言葉で状況を表してもおかしくない。
肩に力無く寄り掛かってきたエースの頭を重みの掛かっている腕で、彼の身体を抱くように包む。
女みたいだと、思った事は一度もない。筋肉質で骨太タイプだろう。しかしそれでも彼を可愛いと思ってしまう時はいつも自分がどれだけ惚れているのか思い知らされる。
気づいた時には運転手の存在も他所に、その唇へ何回目かのキスを落としていた。
-*TO BE CONTINUE*-