甘い恋をお探しですか?-05- (*)
いつもより少し熱い唇。
長い事塞いでいれば寝ている彼はさぞ苦しくなるだろう。
目蓋を微かに震わせて、口端から零れた息に声が乗り頭を横へ振る。
その拍子に唇が離れるもそれでも起きないか、と短く笑い手の甲でそばかすの散った頬を撫でる。
もう少し自分の身に危機感を持ってほしいものだが。
この無防備さはあまりいい事ではない。自分から見れば億万の人々の中で誰より可愛いエースが、誰とも知れぬ恋敵にうっかり貞操が奪われてしまう事があるのじゃないかと、心配になる事がある。
自分のものだという消えない証が残せたらいいのに、と独占欲剥き出しの思いさえ思案してしまう。
今までこうも恋愛に調子を狂わされた事はなかった。
誰かの事をいつも考えて、嫉妬して独占欲剥き出しにして、無防備にしていればキスをしたくなって、自分で壊してやりたくなる。
寧ろ今まで自分が使っていた恋愛という言葉が意味を誤っていたのかもしれない。ただ身体ばかりを重ねて、恋愛に則って時々言葉を伝えて、それが恋愛なのだと思い込んでいた。
大切過ぎて手を出せない事なんてあるのか。
自分に怯える彼は見たくない。しかし、自分にだけの表情をもっと見たい。
「ん、ま…るこ」
寝言に乗った自分の名に、外の景色を泳がしていた視線を彼へと戻す。
緩んだ口元からは今にも涎が垂れそうで、そのままいけば自分のスーツが汚れてしまう。
親指の腹で少し乱暴に拭ってやれば、眉を潜めて唸りを上げた。
そんな事にさえ、つい可愛いと呟いてしまいそうな自分は心から彼に恋をしてしまっているのだと、感じる。
タクシ−に案内を加え、マンションの下に車を付けてもらえばメ−タ−が表した数字の端数を捨てた金額をタクシ−へ置き去り、タクシ−から下ろした事によって半覚醒したエースの肩に脱ぎ捨てられたジャケットを掛け腰を抱き、家へ上がる。
エ−スを自宅へ連れて来るのは初めての事。時々瞑られたままの瞳は着いた家がどこなのか認識していないのか、他へ逃げそうになる体を捕まえて真っ先に寝室へ誘導した。
「ほらよい」
決して広くはない、一人用のベッドへ寝かせると一度身を擦らせて、自ら掛け布団を見つけ身を潜らせていくその順応能力には驚かされる。
体の下で既に皺を寄せているジャケットを救出し、ベッド端へ腰を掛ける。
自分のベッドに愛しい者の姿が寝ているというのは、男としてこんなに嬉しくなる事はない。
体の向きを変えエースの横に膝を付きそこに体重を乗せ、緩んだ唇に口付けた。
それに気付いたのか、目を薄く開く。
体を完全にベッドへ上げ足の間へ彼の体を挟む。
「少しだけお前に触れていいかよい」
寝呆けている彼に言葉の意味など届いているのか分からないが、ゆっくりと目蓋を伏せて再び持ち上げ見せた瞳は真っ直ぐマルコを見据えている。
ふっと口角を上げ頬に短いキスを落とし、そのまま肌を滑らせて首筋へ的を定める。
擽ったいのか、唇が動く毎にエースの肩に力が加わり上がっていく。
丁度シャツの襟ライン。注意深く見れば見えてしまうそこを消毒のように一度舐め上げてから、強く吸い付いた。
「いっ………ちょ、」
「目ェ覚めたかよい」
初めて与えられた痛みに驚いたように肩をびくつかせ、目を大きく見開いた。
見せた黒い瞳は現実に連れ戻されたようにハッキリと光り、状況を把握しようと部屋中を泳いだ。
「マルコの、家?」
「そうだい」
言いながら視線を視線で捉まえ、丁寧に両手を使ってエースのシャツのボタンを外していく。
「な、なにしてんの…」
「触れていいって許可、貰ったからねい」
「誰がっ…」
「お前が」
ボタンが全て外れるとシャツを開き脇を両手で掴み、首に唇を付け素肌に舌を這わしていく。
「うわっ、…ンッ」
シーツを連れて膝が低く立つ。
表情が見れなかったのが残念か。
短くではあったが、初めて聞くエースのいつもとは違う声色。想像していたよりも甘い。
身体。素肌。甘声。
マルコの興奮を誘うには充分だった。
-*TO BE CONTINUE*-