甘い恋をお探しですか?-11-


「ルフィ…」



ピンポーーン―………

話を割るような絶好のタイミングで、家にチャイムが鳴り響いたのはその時だった。
この家のチャイムは二ヶ所。玄関と門。玄関のチャイムが鳴らせるのは、門番とも顔馴染みになるほどの親しい人物でしか通れない。
このチャイムは門で鳴らされた音だ。
三人共がなにを発するでもなく口を閉ざし、家政婦がパタパタとスリッパを鳴らし廊下を駆ける音に耳を澄ませているよう。

「ジジィの客じゃねェのか?」
静寂の空気を裂き、疑問を当てたエースは熱くなったルフィを止めるように腕を引き、座らせる。
「打合せ入れてるかどうかくらいはわしでも把握してる、この時間は無いはずじゃい」
ソファーに仰け反ったガープに疑いの目を向け、ふぅと一息吐いた。ノックの後にリビングのドアが開かれ、家政婦が顔を覗かせる。
「旦那さま、お客様がお見えです」
「ありゃ?」
「何が把握してる、だよ」
案の定の答えに呆れたような溜め息。
「誰だ?」
「マルコさん、と名乗られる方でして…」
「なに……あ、おいエースっ」
その名に目を丸め立ち上がったガープを押し退け、家の門へ向かった。

どうして来るんだ。
どうして来たんだ。
身一つで敵船に乗り込む事に勝ち目はない事位、頭がいいあんたなら分かるはずだろう。
それに此処は、仮にもあんたが勤めてる会長の家だ。

「なに、してんだよマルコ…」
玄関から靴も履かずに裸足で飛び出し石畳を通って門の向こう、車が停まっている前に人影が見え声を掛けた。
門の片側を開き、直にその姿を見据える。
「会長の家がここなんだって聞いたもんでねい」
目を軽く細めて笑む様子は、とても恋人の実家を訪ねてきている緊張した面持ちのようには見えない。
「そういう話じゃなくて……」
どちらかと言えばこの家の跡取り息子であるエースの方がこれをどうしたものかと、冷や汗を掻いている。
そんなエースにふっと短く笑い、触れるだけのキスをした。
「会長のところに、案内してくれるかい」
「なにすんの…?話聞かねェと思うけど」
「…お前をくれって言うよい」
ほんの少しの間の後の宣言。公然で愛の告白よりよっぽどタチの悪い冗談。
「…はあ!?ちょ、マルコっ」
思えば、いつも以上にアイロンがきっちりとかかったシャツ、皺一つ無い背広と気を遣われている服装。冗談じゃないとしたら…止めてくれと自分の心臓が騒ぎ立てる。
先を行ってしまったマルコを、門を閉め追う。
後ろからマルコの背中を軽く蹴飛ばし、先を歩くと指紋認証で玄関を開けてからスリッパを出し、客として招き入れる。家政婦に茶を頼み、一息吐いてからノック一つの後、ドアを開いた。
「なにしに来たんじゃい、わざわざ」
「わざわざ会長に話したい事があったんですよい」
どうせならこの死刑宣告されるような思いの前、ふたりきりの時間をもう少し楽しめば良かったななんて恋する女のような事を考えてしまうのも、多分息も詰まるこの空間で睨み合う二人を目の前にろくな思考が回っていないせいだ。
「まぁここまで来た度胸に免じて、話だけは聞いてやろうか」
「単刀直入に言えば、エースが欲しい」
「だめだ、分かっていて何故聞くんじゃい」
「許して下さらないのなら、奪うまでですよい」
「そんな事したらきみの未来は無いぞ」
脅しではない。その目は本気でそれを考えている。
純粋に嬉しい。愛されているんだ、家族に。でもマルコの言葉も同じくらい、隠しようなく心が喜んでいた。
「会長は無いですかい?なにを犠牲にしてでも欲しいと思ったもの」
それなのにどうして、つらいなんて思ってしまうのだろう。
「マルコ…」
「…………」
ガープの視線が一度こうべを垂らすエースを向き、長い沈黙を置いてまたマルコへ戻される。
「地位なんか要らねェよい、ただこいつが傍に居てくれればおれは幸せになる。今では運命にさえ思えるよい、あなたの会社に入ってエースに会えた事も」
「なにがいいんじゃい、エースの。君は男じゃろう。女じゃない、男のエースに君がそこまで魅力を感じるものはなんじゃ」
ああ、そうか。
「おれがっ、好きな奴の幸せ望んじゃダメかな?ジジィ」
それがずっと引っ掛かっていたんだ。幸せにしてもらっているのに、自分はマルコに何一つ返せていない。女でなければ可愛げもない。
そう思ってた。
だけど自分が傍に居ることでそれを少しでも返せているのなら、それ程幸せな事はないじゃないか。

「…あなたと一緒で、おれはエースの笑顔が好きなんですよい。泣かせたいわけじゃない、困らせたいわけでもない。ただ、今のこの瞬間だって、笑っていてほしいおれの傍で」
「他に言う事は」
ガープの声色が変化した。
そして視線が足元へ落ち、それは諦めたようにも見え、
「エースをおれに下さい」





-*TO BE CONTINUE*-