-息を止めて-
多分驚いただけだったのだと思う。息が止まるくらいに。
「おれは、特別な意味でおまえを想ってる。ずっと見てたよい」
降ってきそうな程空に星が瞬くモビーディック甲板上の事だった。ここまで大人数の船では、マルコと二人きりになることも珍しい事だった。
冬島近くを通り過ぎる、寒い気候の下。白い息を吐きながら壁を背に座るエースの元にマルコが来て、他愛もない話から始まり、そうしてどうしてそういう話になったか。
特別ってなんだろう。いや、ちゃんと意味は知ってる。
それは他とは違うという事。
他と、どう違う?
「マルコ…?」
モビーディック号に乗ってから、多くの人と接した。
末っ子だからと可愛がられ、頭を撫でられる事はあったし食糧を与えられる事もあった。
だけど、決して細いとは感じていない自分の体を誰かの腕に包まれるなんて事はなかった。
名を呼んだはずなのに、応えがない。
代わりに見えたのは、ピントが合わない程近付いていたマルコの顔。
「ん…、」
心臓がばくばくと鳴って、唇からマルコの熱を感じる。
マルコとキスをする事がイヤじゃない。
しかし、自分の感情が分からない。
想うだけで泣きそうになる事はない。
ただ幸せだと感じる事はある。
他の人ではそんな事ないのに、マルコと居ると脈が速まって顔が熱くなって、ああやっぱり苦しくなる事はあったかな。
これを好きと言っていいのか、それが分からない。
なあ、許してくれる?
よくも分からずに、この言葉を使う事。
「おれも好き、だ…」
「ああ」
優しく微笑んで再び触れた唇。
マルコはもしかしたらずっと前から、おれより先におれの気持ちを知ってたのかな。
そうだったら嬉しいな。
そうだったら恥ずかしいな。
息を止めて。あんたの唇で。言葉で。想いで。
今度はおれが驚かせてやる位、いつか愛のかたち教えてやる。
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