邂逅記念文


出会って欲情した。
 一言で言えば、そんな理由に過ぎなかった。


 いつの事だったか、あれだけメディアに取り上げられていた高校生探偵が唐突に姿を消した。
 自分も同い年の彼と直接会った事は無かったが、いつか彼の元に暗号めいた挑戦状を叩き出し、そして名探偵と呼ばれる彼の実力を見させてもらうのと同時に、もし本当に自分の暗号を解いて直接会えたのならば、逃げる前にまず話をしよう。そう思っていた。
 それなのに、彼は居なくなったのだ。メディアから姿を消しただけではない。

 高校生探偵、工藤新一という男が一人、この世から居なくなったのだ。

 それなのに世間は、そう騒ぎもしない。メディアのターゲットは結局捨て駒方式で、居なくなればまた新しい者を探す。工藤新一も結局はその犠牲者に過ぎなかったというのか。
 しかし、これまで特段その工藤新一という男を気にしていた訳でもない。いつか対決が出来ればいいと思っていたくらいか。どうして自分がそこまでその男を気にしてしまっているのか、その理由さえ分からなかった。

 工藤新一という男を探している内に辿り着いた米花町という地で、予告状を出す事になったのは少し早くやって来た桜が満開に咲き乱れた頃だった。
 いくら姿を隠している工藤新一も、コレを見ればきっと暗号に食い付いて来てくれるものだと信じていた。
怪盗が探偵を待っているなんてそれもおかしな話だが、そうしてでも会ってみたかったのだ。
 それなのに、現れたのは自ら名探偵と名のる江戸川コナンという眼鏡を掛けた少年。
 彼が、工藤新一なのだと知った時沸き上がった衝動はどうしてそうなったという動揺と、案の定自分の暗号を解いた天才的頭脳、それから憧れに似たような甘い感情を織り交ぜてゾクゾクとオレを襲った。

 初めての感情。
 知りたくも無かった感情だ。
 しかし同時に、それが答えな事にも気付いていた。


 奪うのが怪盗。そのはずだったのにオレは、あっさりと奪われた。奪いたくもなった。

 予告状も出さずに何かを盗みに行くのは、これが最初で最後でいい。

「お前に聞きたい事がある」
「なんだよ、気持ちわりーな」
「コレ返すからさ、お前の気持ち盗んでいい?」



 君と初めて出会えた4月1日を記念日として。
 さぁ、オレに会いにおいでよ。

 昂ったこの気持ちを、止める方法も知らないから。

「今は好きじゃなくていいよ、いつかオレが居ないと物足りない位にしてやる」
 そう言って、初めて触れた他人の唇。
 今まで人の手の甲には幾度と敬意を示したキスをしてきたものだが、唇に触れるというのはこんなにも緊張するものなのか。

 手のひらは、尊敬。唇は愛情だっけか。
 どちらかと言えば、これは狂気の沙汰に近いのかもしれないが。

 オレでいっぱいになってしまえ。
 工藤新一。江戸川コナン。


 いつかお前を捕まえてみせる。



fin...