キイロの色はどんなイロ? 04


快斗の言葉で、その正体は判明した。
オレがこの男に捕まる、予知を表した色。その頻度が高まるにつれて、オレの心は勝手にこの男に惹かれ、黄色の警告が利かなくなっていく。
逃げるお前を追う自分。追っている内はまだ良かった。今朝突然現れて、逃げようと思っても着いてきて、そう追われ始めてから逃げたくなる。
恋に堕ちるなんて、知りたくも無かった。だから逃げたというのにどうして追ってくる。お前に、捕まりたくなかったんだ。

「その正体、分かったんでしょ?」

大人しく、オレに捕まりなよって。

耳に寄せられた口から発せられた言葉が鼓膜から直接響く、その声に目の前が黄色と赤色の点滅を始める。
逃げて、止まれ。避けて、止まれ。止まれ、止まれ止まれ止まれ止まれ………
――オレの感情。

すきとはなんだ。
男のオレが、男のお前に対し、すきとか、すきかもしれないとか、そんな感情を抱くはずが無いのに。
探偵のオレが、怪盗のお前に対して、捕まえられる事に心が高揚しているなんてそんなはずが無いのに。

いつからだ、昨日か。その前は、一週間前。初めて会ったのは、何ヶ月前の事だったか。いつからオレは、暗い闇の中で立振舞う、白を象徴とした怪盗キッドに目を奪われていたのだろうか。
本棚を背に付き、顔の横に快斗の手が着く。向かい合った快斗の顔が、否応なく自分の顔へと近づき、何をされるかなんてなんとなく察知しながらオレは、その場から身動きが取れなくなっていた。
目を見開いたまま、近寄ってくる顔を「ああ、格好良いな」などと思う余裕はどこにあったのだろうか。
本棚の向こうには、見えるところに司書が居る。ただでさえ、この学校の指定制服がまだ出来ていない快斗の学ランは、目立つというのになにをしている。
一瞬触れる直前で止まった快斗の唇は、歯も浮くような恥ずかしい台詞を言いのけて、それから息をも詰める口付けをそっと優しくされた。
「好きだよ、新一。此処で出会う前、名探偵の頃からずっと好きだった」
「っ………」

どうしたらいいのかが分からない。気付けば、あんなに騒いでいた黄の色も今になっては幻想に思える程綺麗さっぱり無くなっており、今目に映るのは頬を少し赤らめて蕩けるような優しい目をした快斗の表情。
「……言っただろ?新一の心奪いに来たって」
心臓がうるさい程鳴っている。静まり返った図書室では、そんな潜めた声だって司書に届いてしまうのではないかと何故か自分の心拍数が上がる。
そして、色が付き始める。今度は警告の黄色ではなく、優しい薄い桃色。桜の季節ももう過ぎたというのに、それによく似た色だ。
カタンと自分が動かした足が棚に当たり、思わず息を飲んだ。
一々過敏に反応をする自分が面白いのか快斗は頬を緩ませて、わざとらしく唇の前に人差し指を立てる。
ところがその後に続く言葉は、その行動とは矛盾する。
「何か言ってよ、新一」
再度触れてもおかしくない唇が、自分の唇の目前で動き、息がふわりと掛かる。その瞬間、息を止めて顎を引き、視線を斜め下に落としてそれからようやく口を開ける。
「お前の事は、……好きじゃない」
それでも、おずおずと出た声は少し震えて多分また快斗に笑われるのだろう。好きじゃないと言うには説得力に欠ける。
「勘違いだ…、違う」
自分にも言い聞かせるような言葉を続けてそう言うと、再び目の前に黄色の点滅が戻ってきて、警告が鳴り出した。
「どうして?」
「お前が好きだなんてオレに、言わせるな…っ」
今までとはまた少し違う、他の色が混乱して交ざり合い、オレの中の色はいま、ぐちゃぐちゃだ。
――好きじゃない、好きじゃない…。
そう思うたび、色はどんどん混じり、白を見失っていく。

「じゃあ、もう一回キスしていい?」
前の会話との接続詞として「じゃあ」は相応しくないだろう。しかし、その質問に対して否定も出来ず、口をきつく紡いだまま微か首を右へ傾ける。
そうして再び近付いてきた快斗の表情を今度は自分が目を瞑ってしまっていて、窺い見る事が出来なかった。触れるたび、凄く凄く近くに感じる快斗の感情は自分に向いているのだと自惚れていいのだろうか。

悔しいがどうせ、オレの心なんてお見通しなんだろう。だったらいっその事、どこまで分かっているのか教えてもらうのもいいかもしれない。
キスをされるたび、色は解放されたように晴れるのだ。

そして再び繰り返される、黄色の警告。
これはもしかしたらオレが探偵である以上、一生続いていくのかもしれない。
怪盗に恋する探偵以上に惨めなものはない。恋するな、堕ちるな、ハマるな、警告はまだオレの中に鳴り響いている。


それでもオレは――――……



fin...