-君と僕の手-



あんたとおれの手。ちゃんと見てみたら、どの位違うところがあるのかな。

マルコの部屋で目が覚めるのは、寝呆け頭でも判断が出来る程、慣れた事である。
波が船体にぶつかる、至って珍しくもない音に誘われて目を開いたエースは、見慣れた天井から視線を窓の外へ泳がせて、空の色を確認した。

まだ夜だ……。

ゆっくりと頭の向きを戻してみれば、隣でまだ眠る男の姿に、自分が先に起きるなんて事があるのかと、妙に擽ったくなって身を捩った。
その時、背に触れた手の感触にふとそちらへ視線を移す。身体の下に腕が通り、抱えられるようにして置かれていたのだ。
痺れさせてしまうだろうと、上体を起こして腕を退かそうとすれば、またその手がエースの身体を包み直して抱き寄せる。
「…っ、マルコ…?」
起きたのかと、声を掛けてみても変わらず寝息を立てているだけ。
しょーがないかと、枕に頭を下ろして身を留め無造作に置かれているもう一方のマルコの手を取って、自分の手と重ね合わせた。
僅か、マルコの方が大きいか。

おれの手は、決して女の子のように柔くない。小さくない、指も細くない、綺麗でもない。骨張って、戦闘で作った傷をいくつも残している。でもマルコはそんなおれの手を、握り包みこんでしまう事が出来る。大きさはそう変わらないのに、それが不思議である。
握り心地なんて良くないはずだ。いいところなんて体温が高い位なもので、守ってやりたくなるような脆さは無い。
夜の冷気に冷えたマルコの手に、自分の熱を移して温めた。

ねぇマルコはそんなおれの手を、どうして好きだと言ってくれるんだ。引き寄せられてマルコの唇に触れる、頬に当てられた事もあった。

マルコの手は、おればかりじゃない、この船に乗る皆を守る強い手だ。時にそれは不死鳥の青く光る羽となり、空を自由に舞う。
よくやったと、仲間の頭を撫でるマルコの手に嫉妬を覚えた事もあった。

あれは、おれの手なのに。

でもマルコは違うと言った。仲間に触れる時と、おれに触れる時は、全く違うのだと。なにが違うのかは、教えてくれなかった。
だから毎日違いを探してじっと見て、そっと触って、ぎゅっと握って。それでも分からなかった。
ヒントは、仲間が言った一言に隠されていた。
『マルコ隊長って、冷え症なんだな』
何度も、何度も触れてきているがそんな事を思ったのは一度もない。おれに触れる時のマルコの手はいつだって、ぽかぽか陽だまりのように温かいのだ。

おれのせいかな。おれのためかな。

それだけで嬉しかった。
おれはこの悪魔の実の能力のせいか常に身体は指先まで温かい。おれの体温を、マルコに分けれているとするならば、なんて幸せな事なんだろうか。
包まれる腕にぽかぽかと温かい温度を移されれば、一度覚めた目もウトウトと再び眠気に誘われてゆっくりと目蓋を落とす。
次に目が覚めるときにはどうせ、またマルコに先を越された朝を迎える事になるのだろう。

今だけ、もう少しだけ、こうしていていいかな。

掴んだマルコの手に指を絡ませて、顔へ寄せる。
同じように温かい、その手の温もりにエースは再び眠りに落ちた。




-*END*-