甘い恋をお探しですか?-01-
彼はこの春、短大を卒業して新卒で晴れて社会人となった。
会社名は言えば知らない者はいない大手企業。その会長が祖父な事から、不景気の中でも彼の将来は安定と言える。
しかし彼は決してその大企業の御曹司としての位を喜んでいるわけではなく、高校進学時と同時に家を出て一人暮らしを始めた。
その後追って弟が家を出ると言い出し、現在は2LKのマンションに大学へ進学したばかりの弟と共に暮らしている。
そして彼には恋人が居る。見た目はいかにも不良上がりな風貌で目つきが悪く、体格もいい。決して低くない彼の身長の更に上を行く。
性別は男。年齢もかなり離れている。見た目からちぐはぐな2人が並んで歩いていたところで、彼らを恋人同士だと思う人はまず居ないだろう。
彼の名は、エース。
容姿端麗という訳でもないが、屈託の無い笑顔と取っ付き易い性格から老若男女から人気がある。それは恋愛対象としても。
着慣れていないスーツに身を纏った姿は新入社員としての初々しさを引き立たせる。
入社式を先日終え、現在は各部署に週代わりで配属適正研修中だ。新入社員が出来る事は限られており、定時にて帰る事が義務付けられている。
今日の飯当番は自分だったか、とエースは仕事帰りの足でスーパーへ寄り、目に留まった全ての食材を籠へ重ねていく。食欲は兄弟揃って尋常ではなく、6人前を平らげてもまだ腹八分目だ。エースの稼ぎも、弟のバイト代も、生活費以外は主に食費に消える。それを苦だと思わないこの兄弟はやはり普通とは一本道が外れている。
「ただいまー」
玄関で靴を脱ぎ捨てながら室内に向かって声を掛けると、例の弟、ルフィがリビングから顔を出し満面の笑みでパタパタと足音を立てながら迎えた。
「おかえりっ兄ちゃん、今日の飯なんだ?」
パンパンに詰められたビニール袋を一つ取り上げられると、食材に目を光らせ興味津々に伺ってくる。
「今日はカレーと炒飯と親子丼」
どう考えても一つ一つが主役になれる3種が揃った夕飯に目を光らせるのは、この兄弟くらいだろう。
「そういえばサンジがさっき、美味く出来たからって肉じゃがくれたぞ」
「おー気が利くなあ。サンジの飯は美味いからな。今日食っちまおうぜ」
帰ってきた足でキッチンへ向かい、ス−ツジャケットのみ脱ぎ捨てると腕を捲って一番時間の掛かるところからと寸胴を取り出す。業務用でしか使わないだろうそのサイズの鍋は兄弟にとってはレギュラーサイズ。更にはコンロも5口ある。仕事の帰りが遅くなってしまう事もあるエースが、料理が言うほど上手ではない弟の為に作り置きをしておく為でもあるのだ。
サンジとは、隣に住む料理の上手い人。ルフィと同じ大学へ通い、友人になった後にお隣同士だったのだと知り、それ以降特に飯の面で世話になっている。
手際良く料理を済ませると、3種のメインとは別に更にどんぶりにたっぷりご飯を盛った器を前にスプーンとフォークを持って料理が出揃うのを今か今かと待つルフィの前へ並べてやる。
「うんまそーだなっ。じゃ、いっただっきまーす」
料理を並べ終え向かいに座ったエースも続けて挨拶を済ませると、ルフィには負けんばかりに食事に食らい付く。この兄弟の食事には会話が無い。しかしそれは決して仲の悪い様子を想像させるものではなく、声の変わりに聞こえてくる食器を鳴らす音を聞けば分かるように、ただ目の前に居るライバルに飯を取られまいとまるで競争のように食らっているのだ。
あいにくそのタイミングで携帯が鳴っても2人とも耳に入らない。事実、今現在エースの足元へ置かれているカバンの中で電話着信を告げているのも気付いていないのだろう。
空になっていく皿が増えテーブル上の料理が一通り片付いた頃、兄弟は漸く手を止め、ルフィが食器を洗い場へ運ぶ。
これも二人が上手に暮らしていくのにあたって作られたルールだ。食事の片付けは、料理当番ではない方が行う。料理当番は決して作る事を義務付けている訳ではない。
食費の中で二人が満足する量を用意出来るのならば、出来合いのものを買って来てもいい。
そうする事が多いのはルフィだが、最近は暇を見てサンジに料理を教わっているという、中々感心ものである。
「ルフィ、片付け終わったら先風呂入っていいからな」
そう言って首を左右に倒して鳴らすと、カバンと脱ぎ捨てたジャケットを持ちリビングから向かって右側のエースの個室へ戻る。
そこでやっと携帯を確認し、着信が来ていた事に気付く。着信履歴に表示された名前を見て、自分でも気付かない程度に頬を染めた。
携帯を持ったまま、ベッドに突っ伏せる。顔は横へ向け、尚も携帯の表示を見て掛け直しをするか否かを自分に問う。
こうも恋愛初心者丸出しのエースだがそれを裏付ける理由としてこの相手は初めての恋人である上に、最近想いを告げ付き合い始めたという年の割りに合わない、恋愛に関しては中学生のような男なのである。こんな姿はとても弟には見せられない。
とりあえず部屋着に着替えてからと起き上がった瞬間、再びの着信を告げる。シャツを脱いだところで、携帯に飛びつき一息吐いて通話ボタンを押した。
『飯は食い終わったかよい』
「…おお」
通話口から聞こえてくる恋人の声がやけに擽ったく、スーツズボンにシワが寄るのも気にせず布団へ潜った。
『お前のスーツ姿はやっぱりいいよい』
「どこで見てんだよ、ストーカーか。つーかそんな事言う為に電話してきたのかよ」
オレは、彼の…マルコのスーツ姿見た事無いのに。
仕事は知らない。どこに住んでいるのかも教えてもらっていない。
それでもいい。今は凄く幸せなんだ。
『エースの声が聞きたかったんだよい』
「…バカか」
今はこれだけで心がいっぱいなんだ。
「なあ、マルコ」
『なんだよい』
「す、好きだよ」
この気持ちだけで埋め尽くされているんだ。
-*TO BE CONTINUE*-
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えー、なんとなく続きます。新連載こんなんです。
エースが3割増し位で乙女です。
まぁこれを読まれる際は、ブラックコーヒーをお供にどうぞ。
メインタイトルに深い意味はありません(多分)