甘い恋をお探しですか?-02-


それから更に15分会話をした程度で電話を切った。
平日はお互い仕事という事もあって、まず会う約束をしたことが無い。休みになれば、唐突にも呼び出されたり家の前に居たり。
会いたいという意思がない訳ではない。意思表示が非常に不器用なのだ。
「会いてえな…」
電話を切った携帯画面をボーっと眺めつつ、1人呟く。
1人だと、こんなに簡単に言葉に出来るのに。

「兄ちゃん!風呂開いたぞー!」
「うわっビックリしたー…おー、サンキュー」
足元で突然大きく開いたドアに驚き身体を跳ね起こし、咄嗟に携帯を布団に隠してルフィを押し返しながら部屋の外へ出る。
「ルフィも湯冷めしない内に布団入れよ」
「うんっ、そうする。おやすみ兄ちゃん」
頭にタオルを乗せたまま、ニィッと目を無くし歯を見せ挨拶を告げる。
ルフィならきっと素直で自分の気持ちに率直に、相手に伝える事が出来るんだろうな。オレには無い、純粋さを持っているんだ。
「頭乾かしてからな。おやすみ」
エ−スも風呂はシャワ−だけと簡単に済ませ、スーツをハンガーへ掛け睡眠欲に流されるがままに眠りに就いた。


朝。東向きの窓が備え付けてあるエースの部屋にはカーテンの隙間から朝日が差し込み、スズメがチュンチュンと鳴くメロディーの目覚まし時計に起こされる。チュンチュン音と言えど、ボリューム自体はMAXだ。耳に触る程度の優しいものではなく、鼓膜を壮大に響かせる。
寝呆け眼で身体を起こしたエースは頭を掻き毟り、まず一番にスーツへ着替える。そうしなければ、仕事への意欲に変えられずあっさりと眠気に負けてしまう。
それから手洗い場で顔を洗い、ルフィを起こしに向かう。夕食材と共に買ってあったあんパンを齧り、歯を磨いて会社へ向かうのがいつものエースである。

時計は朝礼の20分前というところか。徒歩通勤にて着いた社屋は迷子になってしまいそうな程広い。
現在研修で配属されている部署は確か奥のエレベーターで12階。
脳内で建物内図を思い浮かべながら、乗り場まで足早に向かう。
奥まで来るとさすがに人が減り、待たずとも上ボタンを押したと同時にドアが開いた。
そそくさと乗り込み操作板の前へ立つ。
少し俯せ気味に自分の行き先ボタンを押し、閉ボタンを押そうとした際に後ろから手が伸びて来て、思わず身を竦めた。わざわざそこから伸ばす必要があるかと心の中で舌打ちすると、そのまま肩を捕まれ後ろへ重心をずらされた。

倒される…っと思ったのは束の間に背中が後ろの人の身体へ付く。
エースの反撃を待たずに見ず知らずと思われていた人物の唇は動いた。
「お前の今の配属先は15階だろよい、エース」
声に聞き覚えがある。
様々な理由から目を丸くしていれば、彼の唇が皮膚の薄い耳裏へ付く。
「そんなに気付かないもんかねい」

「マ、ルコ…?」
「なんだよい」
昨夜と同じ言葉。耳に響いてくる温かさが同じだ。
「どう、し…っ」

-ポ−ン-

エレベーターが目的地到着の音を告げる。それはエースが誤って押した12階。マルコは素早く15階のボタンを再び叩き、最上階である65階のボタンを押す。
エースが今だ揺れる瞳を顔だけ振り返り見せれば、唇を重ねられた。

大型ビルなだけあって最上階へ着くのも早い。腰を片手で抱き操作板の影に隠すように壁へ押し付け、最上階にてドアが開いた瞬間に閉ボタンを強く押さえる。
行き先ボタンは押されず、抑えつけられるように付けられた唇は長く離れる事を知らない。

「ん…っ」
先に時間を気にしたのはエースだった。新入社員が朝礼に遅刻する訳にはいかない。
エースが離すように顎を引くと、マルコの唇も名残惜しそうに固く閉ざされたままだった唇を舌で一舐めして漸く離れた。

「やっぱり、スーツはいいよい、エース」
「バカだろ」
15階と自分が降りる9階のボタンを押し、エースを抱き寄せる。それに特に抵抗するでもなく、頬を肩につけ温もりを感じる。
間もなく、エースの目的階へ到着を教える音が響き、恋人同士の甘い時間は終わりを告げた。



-*TO BE CONTINUE*-