甘い恋をお探しですか?-08-


「お前も手伝えよい。いい旦那になれねェぞい」
「飯作れるマルコが引き取ってくれればいいよ」
すぐにも返ってきたプロポーズのようなエースの言葉。
「だろ?」
同性だろうが、歳がいくつ離れていようがもろともしないエースの考えが受け取れる言葉がマルコの心を打つ。

恋人には束縛するつもりはなかった。だから指輪を買ってやった事もなかった。
ましてや自分が結婚を許されない同性相手にキスマ−クを付けるなんて思ってもいなかった。自分のものだって印を付けたがる自分がいるなんて知らなかった。
エースと付き合ってから全てが変えられてきてしまっている。彼によって。
それがいい方向になのかそれとも悪い方向なのかは、彼自身が決める事だ。

「ゆっくり起きて来い」
身を起こしリビングへ足を向けたマルコを視界に捕え、追い掛けるように上体を起こしたエースだったが体の気怠さに敵わず前屈のような形で布団へ突っ伏せてしまう。それを見たマルコが小さく笑い、頭を撫でながらそう伝えるも手を乗せてた頭は左右に振られた。
「めし…」
「すぐには出来んよい」
「……マルコが作るの見てェ」
思いがけない可愛らし過ぎる恋人の言葉にマルコも一瞬動きをぴたりと止める。
全く一体どこの新婚か。
一息吐いて顔を上げたエースに、ベッドの端に膝を付いて短いキスを落とし、膝の裏と背中へ手を通すとぐっと自分の方へ寄せて一気に抱き上げる。
「うわっ」
当然そんな抱かれ方をした事の無いエースは恥ずかしさからも手足をばたつかせ、頬を紅潮させる。
「暴れるなよい、落ちるぞ」
リビングのソファーまで連れていく短い間ではあったが、そこには確かに暑苦しい程のピンクのオーラが纏われていた。
「マジでバカだろあんた…」
「お前ほどじゃねぇよい」

甘い甘い二人の1日はそうして始まった。

同伴出勤したところでこの会社の人数では目立つ事は無い。交際を隠している二人ならば尚更だ。
タクシーから降り、会社の敷地内へ入ればすれ違う人毎に声を掛けられるマルコ。仕事が出来る頼れ、総務課であれば人気者になるのは必至だろう。しかしそれを見て嫉妬せずにいられるほどエースは出来た大人じゃない。
口には出さない燻りを胸に感じながら、先に奥のエレベーターへ進み15階へ向かう。
フロアーが違えば廊下ですれ違うなんて事さえ難しい。好きな人と同職場だと知って仕事への楽しみと喜びが倍増した分だけ、寂しいと感じる時間も増幅した。
「おはようございます」
幸せに対してかなり貪欲になっている。
デスクに鞄を置き、一息吐くと後から入ってきたサッチが隣へ着いた。
「よう、おはよう。おうおう、見せつけてくれるねぇ」
「あ、おはよう。なんの話だ?」
「首、キスマーク付いてるぜ。そんなん付ける奴だなんて知らなかったな」
自分の首で示しながらケラケラ笑うサッチに、顔の熱が一気に昇ったのは鏡を見なくても分かった。
マルコもそれを際どいところへ付けてくれたものだから、家を出る前鏡の前で10分奮闘してもシャツだけではどうにも隠し切れない。
だからといってそこに絆創膏やテーピングなどすれば余計アピールしてしまっているようなものだ。
サッチにローキックをかまし、荒々しく椅子へ腰を下ろす。次いで痛みを持つ足を擦りながらサッチも自席へ座る。
「愛されてんねマルコさんに。独占欲剥き出しかよ」
「サッチは、マルコの過去の恋愛知ってんのか…?」
「いや、知らねぇよ。だから驚いてんのさ。俺が知ってる限りで今まで恋人の存在なんか匂わせもしなかったあいつだったのに、俺が同部署に居るって知ってながらそんなもん付けちまうなんて、よっぽど他人に取られたくねぇんだろうな、お前の事」
マルコの過去の恋愛聞いてみたかった。今までどんな人が好きだったんだ。どんな人とどんな付き合い方をして、どんな愛の言葉を囁いて。どんな触れ方をして、どんなキスをして。
でもそんな事もうどうでも良くなった。バカじゃねぇのなんて返せる余裕さえ奪ってしまう程、嬉しかった。




-*TO BE CONTINUE*-