甘い恋をお探しですか?-09-
その日の終業時間間近の事だった。
秘書課が妙に慌ただしく社内を駆け回る人の足音を、給湯室カーテンをめくった奥物も犇めく狭いその空間でマルコと感じていた。間近で感じる足音。カーテンの向こう側にも人の出入りを時々感じる緊張感にも心臓が高鳴る。
「まだ仕事の時間だろ、いいのかよ…エリートのあんたがこんなところにいて」
顔を上げれば唇が触れてしまいそうな距離。トイレに行くと席を立ったはずだったのに気づけば腕も視線もどこからともな現れたこの男に捉えられてしまっていた。
例えばこんな事をしているのが会社の人にバレてしまったら自分はどうなるのだろう。
「少し位バレねェよい」
「周り、慌ただしいぜ。行かなくていいのか」
抑えても響きやすい自分の声が少し憎い。もっと静かにしなければこの時間を壊してしまうではないか。
「黙れよい」
塞がれるように唇が合わさればもう抵抗も出来ない。
時間の経過を気に触れる余裕も無い位二人の吐息が優しく重なり合い、唇を割いて進入してくるマルコの舌は感じる度に熱い熱を持っている。
ーシャーッー
「…っ!?」
後ろの棚へ付いていた手肘が崩れそうになった時、背中に回されたマルコの腕に支えられ身を預けた途端それは音を立てて豪快に開かれてしまった。
甘く漏れかけたエースの声がそれに被る。
マルコもエースもその姿に目を丸め、即座に身体を離しエースに限ってはなにかを弁解しようとしていても時は既に遅し。
これはどう考えてもまずい。会社の中の人物でも、最も見られてはいけない人に見つけられてしまった。冷静沈着を保つマルコもこればかりはたらりと冷や汗を垂らしている。
「ぬぁぁあああにしてるんじゃ、お前らっ!!!!」
「ジ…ジジイ……」
最後に姿を見たのは今期の入社式。把握するに、それ以降はここは社長に任せ海外の支社へ長期出張に出ていたはずの会長、すなわちエースの親が青筋を立ててそこに姿を置いていた。何故ここに来て何故ここを開いたのか、理由など聞けるほど二人にとって好ましい状況ではなく、秘書課の騒がしさはそれが原因かと、今更気づいてもそれも全て後の祭りである。
「いや、これは…あの、だな…」
「どういう事かね、マルコくん」
先に立って出たエースを追い越し、彼の視線はマルコへ向いている。
「君には信頼を置いていたんだがね、わしの検討違いだったか」
「ちげェんだよ、ジジイ!」
歯をぐっと食いしばってエースもマルコに視線を送り、動き掛けたマルコの口に慌ててうるさい位の声を上げた。
ガープが相当な愛息子なのは有名な話である。ましてや会社の男などと愛縁しているとなれば、当然聞き捨てならない話だろう。
「エース」
「俺が話すから!今日はいいだろ?帰ってきたばっかりならほら、ルフィも帰らねェと居ねぇ訳だし。そろそろ仕事も終わりの時間だろ、帰ろうぜ帰ろうぜ。じゃ、マルコそういう事で」
マルコとガープを交互に見て、とにかく今は互いに譲らないオーラを醸し出すこの二人を離す事が先決だとエースはガープの背を押し給湯室へ出て行く。
「エースがそう言うから今日は見逃してやろう。君とは今度ゆっくり話す時間が必要なようだ」
「ああ、俺も話したい事ありますよい」
会長に対してもマルコのこの態度。一社員と言えど次期社長と言ってもおかしくない程の権力があるのだと、改めて思い知らされる。
この場はなんとかエースの勝利か、急いで部署へ戻り会長室へ上がると尚も青筋を立てたままのガープに苦笑いを見せ会話も交わす事無く直通のエレベーターにて地下駐車場へ降り専属運転手の付くベンツへ乗り込む。
発進した車は二人暮らしの家経由でルフィを犠牲に連れ込み、この町一番の土地の広さを持つ豪邸へタイヤを滑り込ませた。
-*TO BE CONTINUE*-