キイロの色はどんなイロ? 01
午前零時に鳴る鐘は、いつしかあいつが現れる合図になっていた。
予告状に釣られるがまま集まるパトカーはウン十台。警官の数は延べ百名ほどにはなるだろうか。それ程彼は国際的怪盗として名が高い。
彼を例えるなら白。夜の黒にはっきりとその影を表す。それとは対照的に警察車両が恍々と焚く赤色が不気味に辺りを照りつけている。
シルクハットと白のマントが表すマジシャンの容姿とその確かな技術で、俺らは何度目を眩まされてきただろう。空を飛ばれてしまっては追う術もなく悔しながら唇を噛み締めることしか出来ないのだが、真っ黒な空に白いマントで舞う姿は神の遣い、天使のようだと見違えたこともあった。
怪盗キッドと探偵として対面して話したことも何度かある。その時の彼はいくらか手を伸ばせば届くような距離に居ようとも飄々と言う。
「今回の予告状はどうだった?君を楽しませる事が出来たかな。でも残念だったね、名探偵。今日も君は俺を捕まえることが出来ない」
広げた手からはマジシャンらしくこれまた真っ白なハトをポンポン出して、一羽また一羽と肩や腕に止まらせていく。
『種も仕掛けもありません』ってか。
呆れたように息を吐きながらもこの距離でこちらが一歩を踏み出せば彼は宙に逃げるのだろう。
ハトはいずれも彼に懐いているのだろう、その地で暴れる事もなく、徐々に白い羽根が彼自身の姿を覆っていく。
「お前が怪盗である以上、俺はお前を追わなければならない」
「分かるよ分かるよ、その気持ちは。俺の任務が盗んで逃げることであるように、君の任務は推理して捕まえる事だ」
「逃げる事だとするならば、何故お前は一々俺の前に姿を現すんだ」
そう、一度は飛び立っていた。取り巻く警官の目を欺き、その宙に逃げたじゃないか。何処に消えるか見届けようとビルの屋上に昇ってきた自分の前にわざわざ姿を見せたのだ。
「俺も楽しいのかもな、警察ではない。おっちゃんでもない。お前に追われている事が」
怪盗キッドの正体は、ドMの変態とでも言うか。
目に映る色は変わらず黒と赤と白。しかし何故だ。ほんの一瞬、まばたきをしたその一瞬に目蓋に映った色。
それは眩しい程に黄の色をしていた。
時間や場所を変えれば俺もまだいっぱしの高校生。いくら自分が他よりは幾分名を知られていると言えど、学業の世界は非常にシビアだ。
出席をしなければ単位が足りなくなるぞと注意を受ける。事件の最中で渋々出た授業でも話も聞かずに居てもまた怒られる。やる気はあるのかと。
そんなもの、無いに決まっているだろう。教科書通りにしか話がされない授業に、なんの楽しみを見出だして真面目に受けろというのだ。
時間の無駄だ。それならば家でシャーロック・ホームズの本でも読んでる方がよっぽど面白い。
そうくだらないと思いを馳せながら、今日も今日とて変わらぬ一日を過ごすのかと、大きな欠伸をしていたところだった。
「……〜んだ、皆とも宜しく頼むよ」
普段ならば朝のホームルームなんて時間が一番無駄だと聞き流しているところだが、どうやら今日は少しばかり様子が違う。教室内周りの生徒がざわつき、担任教師に連れられて来た見慣れぬ学ランの男子生徒が、教壇で担任と立ち並んでいたのだ。途中から聞いていた話を聞く限り、想像出来る通り転入生だという事らしいが、そうは言っても今は時期も外れた5月だ。なにか理由があるのかとは、思わずにはいられないところだろう。
そして、
「唐突な編入で皆様にはご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします」
見た事あるような雰囲気、自分とも似たその顔、その容姿、その声、………
(おいおい、キッドじゃねぇか)
その結論に至るのに、時間はそう要さなかったのだ。
「じゃあそうだな、席は工藤の隣でどうだ」
「はいっ」
無駄に溌剌とした声を上げる彼は、もう一度教壇の横で一度頭を下げると指図を受けた席へ向かうべく足を踏み出した。
学期末の席替えのたび、ちょっとした細工を加えるだけで自分の席は常に一番後ろの窓際。その隣だというのだから新入生にふさわしいVIPな対応だ。学生ならばだれでも思う、授業のサボり易さは確保している席だ。
「君がこの学校に居るのは知ってたけど、まさか同じクラスになれるとは奇遇だよ。名探偵」
自分の席の隣を抜ける際、先程のいかにも明るい学生を気取るものとは違う声色で自分にそう呟く。自分がキッドである事を俺に隠す気が無いのか、それともすぐに気付かれる事を想定していてそう言うのかは分からない。
キッドの考えている事が推理出来ない事が俺にとって最大の屈辱であり、だからこそ彼自身を苦手とする節がある。
「わざわざ何の用だ」
「やだなー、そう嫌がるなよ。年齢は決して偽っちゃいねぇ。俺もお前も同い年。まぁ用件としてはあれだな。君の心いただきに参ります、てな」
椅子を引き腰を下ろしてから言うのと同時に、ウィンクで飛んできた憎たらしい星を肘を付いた手で払い、そのままその手に顎を乗せて一つ言葉を吐き捨てた。
「バーロー」
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